あらすじ
裁判長を務める梶間勲は、ある裁判で武内という男に無罪判決を下す。
彼は近所の知人一家を殺害した罪をかけられていたが、証拠不十分であったのだ。
その後裁判長を退官し、余生を過ごしていた勲の隣家に
武内が引っ越してくる-
感想
明らかに怪しいのに、証拠がないもどかしさ
武内が隣家に引っ越してきてから、梶間家には不自然なことが多く起こります。
それが、初めは子供が夜寝ない・・・などのささやかなものなのですが、
次第に家族を崩壊させていくという恐ろしさ。
どう考えても武内が怪しいのに、証拠はないし、
むしろ別に真犯人がいそうな予感もして・・・
前半は少し冗長…
前半は、勲の妻・尋子の視点で話が進みます。
継母の介護に苦しみ、しかし勲のフォローが得られない尋子の心情がつぶさに描かれていますが、少し冗長かなと思いました。
ただ、ここのパートが長いおかげで、やがて訪れる梶間家の崩壊が
より身近に感じられたのかもしれません。
本番は雪見パートから!
中盤になると、物語は勲の義娘・雪見視点へと移ります。
ここから話は一気に加速し、ぐんぐん物語に引き込まれていきます。
不可解の事件の当事者となってしまった雪見は、
何がよくて何が悪いのかがさっぱりわからない。雪見はますます自信を失うばかりだった。
それに加え、家の中には今までに感じなかったような空気が漂い始めている。疎外感に似た、なんとなく遠巻きに見られているようなよそよそしい気配が雪見を包んでいる。火の粉(雫井 脩介) P235
と、言葉に表現しずらい感覚を味わうのですが、
長かった前半戦のおかげか、梶間家の一員としてこの感情を感じ取ることができます。
火の粉 とは
文中で「火の粉」というフレーズが出てくるのは、意外にも、
勲の裁判官時代のライバル・野見山のセリフ。
次々に起こる不可解な事件に疑問を持ち始める勲に対し、野見山は
「もう一度言っておきますが、また何かあったとしても私を逆恨みしないでくださいね。こんなふうに頼ってこられても、私には何もできないんですよ。火の粉を振り払うのはあなたの仕事です」
火の粉(雫井 脩介) P394
と語ります。
そう、次々降りかかる事件こそが、梶間家にとっての「火の粉」なのですね。
もっともこの時、勲は
「まだ火の粉と認めたわけじゃない」
火の粉(雫井 脩介) P394
と返していますが・・・。
とにかく、
途中で読むのがやめられないタイプの本でした。